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福岡高等裁判所那覇支部 平成8年(う)5号 判決 1997年5月06日

本籍

東京都千代田区一番町一番地

住居

沖縄県宜野湾市野嵩一丁目二七番一八号 玉城アパート二〇二号

会社役員

外間尹誠

昭和一五年八月一六日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について、平成八年一月二五日那覇地方裁判所が言い渡した判決に対し、被告人から控訴の申立てがあったので、当裁判所は、検察官高島剛一出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

本件控訴を棄却する。

理由

被告人の控訴の趣意は、主任弁護人早川晴雄、弁護人伊礼勇吉、同山田勝一郎、同比嘉正幸、同中野清光及び同奥津晋作成名義の控訴趣意書及び弁論要旨に記載のとおりであり、これに対する答弁は、検察官高島剛一作成名義の答弁書及び弁論要旨に記載のとおりであるから、これらを引用する。

一  被告人の控訴趣意中、事実誤認の主張について

所論は、要するに、原判決は、被告人が平成三年の株式の譲渡に係る所得税を免ようと企て、山川宗孝(以下「山川」という。)、幸喜伸徳(以下「幸喜」という。)、真榮城保(以下「真榮城」という。)、喜納兼永(以下「喜納」という。)及び島袋昭良(以下「島袋」という。)と共謀の上、被告人の同年における株式の譲渡による所得金額が三二億二〇一一万円であったにもかかわらず、譲渡に係る株式の一部を山川らの名義で譲渡したことにして収入の一部を除外するとともに、幸喜が代表取締役を務める有限会社らに対する架空の仲介手数料を計上するなどの行為により所得を隠した上、同年分における株式の譲渡による所得金額が二億七四〇九万〇三八一円で、これに対する所得税額が五四八一万八〇〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、五億八九二〇万四〇〇〇円の所得税を免れたとの犯罪事実を認定しているが、株式会社沖縄うみの園ほか三社(以下「うみの園等」という。)に売却された(以下、この売買を「本件株式譲渡」という。)海邦興産株式会社(以下「海邦興産」という。)の株式八〇〇株のうち、一七八株(譲渡価格一〇億〇一二五万円)は山川が有し、七〇株(譲渡価格三億九三七五万円)は有限会社外間ビル(以下「外間ビル」という。)が有していたものであり、また、被告人は、右株式譲渡費用に計上されるべきものとして、実際に、真榮城が代表取締役を務める有限会社ジャパンシステム(以下「ジャパンシステム」という。)等に対し仲介手数料として八億五〇〇〇万円を、幸喜が代表取締役を務める有限会社沖縄大伸(以下「大伸」という。)に対し仲介手数料として二億円を、山川に対し仲介手数料として一〇〇万円をそれぞれ支払い、沖縄全日空リゾート株式会社(以下「全日空リゾート」という。)に対し海邦興産が支払うべき売買違約金五億一三三九万四六一九円を立て替えて支払ったものであるから、これらの事実を否定して前記犯罪事実を認定した原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認があるというのである。

しかしながら、原判決挙示の各証拠によると、原判示所得税法違反の事実を優に認めることができる。以下、所論にかんがみ、補足的に若干の説明を加える。

1  所論は、山川は、海邦興産設立前の昭和五九年、被告人に対し、株式払込金の趣旨で八〇万円を支払い、設立当初から海邦興産の株式一六株を有していたところ、その後、被告人から一六二株の贈与を受け、本件株式譲渡の際、合計一七八株をうみの園等に売却し、代金約一〇億円の支払を受けたものであり、被告人は山川から右一〇億円を借り入れたものである上、被告人にはこの点についてほ脱の故意も違法の意識又はその可能性もないと主張し、当審で取り調べた被告人の平成八年一一月三〇日付け供述書(各論)及び当審における被告人の公判供述(以下、被告人の当審における供述として掲げる部分には右供述書の記載も含む。)にも同旨の記載及び供述部分がある。

しかしながら、原判決挙示の関係各証拠によれば、被告人は、昭和六〇年五月、ゴルフ場の経営等を目的とする海邦興産を資本金四〇〇〇万円(一株五万円、発行済株式八〇〇株)で設立し、払込資本金は全額被告人が調達してこれを払い込んだこと、被告人は、昭和六三年三月七日、海邦興産の株式八〇〇株を合資会社白石商会(以下「白石商会」という。)に売却したが、その際、白石商会に対し、海邦興産株は全株被告人が所有していると告げ、それを前提として取引がされたこと、被告人は、平成二年三月、白石商会を被告として、被告人が海邦興産の株式を有することの確認等を求める訴訟を提起し、海邦興産設立時の実質的な株式引受人は被告人だけであり、被告人が海邦興産の全株を有すると主張したこと、被告人と白石商会は、平成二年一〇月八日、右株式譲渡契約を合意により解約したが、その際、山川が海邦興産の株式を一部有することを前提として話は一切なく、海邦興産の全株式の株券は被告人に返還されることとされたこと、同日、海邦興産の全株式がうみの園等に売却され(本件株式譲渡)、本件株式譲渡では一六株について山川が名義人となっていたが、実質的には被告人が右一六株を含め全株式を所有していることを前提として取引がされたこと、平成三年二月初めころ、うみの園等は、被告人から山川の持株数を一六株から一七八株にした契約書に差し替えてほしい旨の依頼を受け、同月八日の本件株式譲渡代金の最終決済が行われた際、被告人との間で、その旨の契約書を作成し直したこと、当日、山川は、うみの園等から一七八株の譲渡代金にほぼ相当する一〇億円の小切手を受け取った後、一部現金化し、現金六億円と小切手四億円を幸喜を介して被告人に渡したが、その際、被告人が山川から一〇億円を借り受けるという話は一切されなかったこと、被告人は山川名義の一七八株の株式の譲渡による収入を除外して所得税確定申告書を提出したことが認められる(原判決挙示の関係各証拠は相互に符合し、格別不自然不合理な点はなく、その信用性は高い。)のであって、これらの事実に照らすと、山川が海邦興産設立当初から一六株を有していたということも、本件株式譲渡時において一七八株を有していたということもできず、被告人についてほ脱の故意並びに違法の意識及びその可能性があったことは明らかである。なお、右各証拠によれば、昭和五九年に日経ビジネスという会社の役員をしていた徳田という男が被告人らと一緒にゴルフ場を開発する話をしていたことから、山川が徳田に二〇〇万円を交付したことが認められるが、右交付の時期や前認定の事実に照らすと、右二〇〇万円の交付が海邦興産設立時の株式払込金の支払であるとは到底認められない。

被告人は当審において、「被告人は、捜査段階において、当初は被疑事実を否認し、平成七年三月八日ころまでは概ね納得できる調書が作成されていたが、同月一〇日には言ってもいないことを調書に書かれたので署名せず、その後、弁護人からの勧めなどもあって、検察官の主張する事実を認めれば、保釈を許され、執行猶予の判決を受けることができるものと考え、同月一三日に、虚偽の事実ではあるが、これを認めることにした」と供述する。しかし、当審における事実取調べの結果によれば、被告人は、逮捕された当初は、検察官に対し、山川が株式払込金を持参したかもしれない旨供述していたが、その後、平成七年三月八日には、検察官に対し、「海邦興産設立時には被告人以外に出資した者はなく、ただその時、山川に対し『これは立て替えるだけで、将来会社が儲かるようになったらその分で返してよ』と言った。その後、本件株式譲渡の話が進むにつれて自分一人が大きな儲けを出した形にするのはまずいのではないかと思うようになり、山川に対し、同人の持株数を一七八株まで増やし、その増えた分の金を被告人に貸し付ける形にしてくれないかと頼んだ」と供述するなど、被告人の当審供述によれば虚偽の自白をする前の段階において、山川の株式所有について、既に被告人の当審供述と異なる供述をしているのであって、このような被告人の供述の変遷や原判決挙示の関係各証拠により認められる前認定事実に照らすと、所論に沿う被告人の当審供述は到底信用できず、所論は採用することができない。

2  所論は、被告人は、海邦興産設立に当たり、山川名義の一六株を除いた残りの株式の払込みについては、実質的には外間ビルがその計算において支出したものであるから、本件株式譲渡時において、少なくとも七〇株については外間ビルが有するものである上、被告人には、右の点についてほ脱の故意並びに違法の意識及びその可能性はなかったと主張し、これに沿う被告人の当審供述も存する。

しかしながら、前記1において認定した事実に加えて、原判決挙示の関係各証拠によれば、被告人と白石商会が前記株式譲渡契約を合意解約した際及び本件株式譲渡の際に、外間ビルが海邦興産の株式を所有しているとの話は一切なかったこと、海邦興産設立以降本件株式譲渡時まで、外間ビルの決算報告書に投資有価証券が計上されたことはなかったこと、島袋は、被告人の指示に基づき、平成三年六月ないし七月ころ、既に税務署に提出された過去六期分の正規の決算報告書について、投資有価証券として三五〇万円を計上したものに差し替えたこと、被告人は右七〇株の株式の譲渡による収入を除外して所得税確定申告書を提出したことが認められるのであって、これらの事実に照らすと、外間ビルが海邦興産設立当初から七〇株を有していたということはできず、被告人についてほ脱の故意並びに違法の意識及びその可能性があったことは明らかである。

原判決挙示の関係各証拠(決算報告書の差替については被告人の検察官調書を除く。)は相互に符合し、格別不自然不合理な点はなく、その信用性は高い。なお、被告人は、捜査及び公判を通じ終始一貫して、被告人が右決算報告書の差替を指示したことについて否定するが、島袋又は高嶺宏之の検察官に対する供述は、高嶺宏之作成の業務日誌に符合し又はこれに基づくものであって具体的かつ詳細である上、格別不自然不合理な点も見当たらず、また、税理士の島袋がこれだけの違法行為をするに至る事情を合理的に説明し得ており、右各供述は十分信用するに値するものであって、右各供述によれば、前記決算報告書の差替の事実が認められる。

被告人は当審において所論に沿う供述をするが、前記のとおり、被告人は、被告人がいうところの虚偽の自白をする前である平成七年三月八日に、検察官に対し、海邦興産設立時には被告人以外に出資した者はなかった旨、既に外間ビルの株式所有について被告人の当審供述と異なる供述をしているのであって、このような被告人の供述の変遷や原判決挙示の関係各証拠により認められる前認定事実に照らすと、前記被告人の当審供述は到底信用できず、所論は採用することができない。

3  所論は、被告人は、四億五〇〇〇万円を幸喜を介してジャパンシステムの代表取締役真榮城に交付し、また、山川は、被告人の指示に基づき、平成三年二月八日にうみの園等から受け取った一〇億円の小切手のうち直ちに換金できなかった四億円の小切手を幸喜に交付し、真榮城及び幸喜は、これら合計八億五〇〇〇万円の処理を被告人から全面的に委任されていたところ、同人らは、これを海邦興産のゴルフ場許認可申請の協力金などとして関係諸機関と交渉した数名の者に対し支払ったものであり、右八億五〇〇〇万円は本件株式譲渡に要した費用である上、被告人には、右の点についてほ脱の故意並びに違法の意識及びその可能性はなかったと主張し、被告人も当審において同旨の供述をする。

しかしながら、原判決挙示の関係各証拠によれば、真榮城は、被告人から架空の領収証を発行することを依頼され、平成三年七月二二日、外間ビル事務所において、被告人から四億円の小切手と現金五〇〇〇万円を受領し、ジャパンシステム作成名義の四億五〇〇〇万円の領収証を作成して被告人に渡したこと、その日のうちに、真榮城は、被告人の指示により、右小切手を現金化し、四億五〇〇〇万円を幸喜を介して被告人に返還し、続いて、幸喜を介して被告人から報酬として一〇〇〇万円を受け取ったこと、その後、真榮城は被告人からジャパンシステムが受領した金額を八億五〇〇〇万円にしてくれと言われ、これに応じてその旨の領収証を作成して被告人に渡したが、その際には何ら金銭の授受は行われなかったこと、被告人は右八億五〇〇〇万円の架空の仲介手数料を本件株式譲渡に要した費用として計上して所得税確定申告書を提出したこと、山川が平成三年二月八日にうみの園等から受け取った一〇億円の小切手のうち直ちに換金できなかった四億円の小切手については幸喜を介して被告人に返還されていることが認められるのであって、これらの事実に照らすと、被告人が真榮城及び幸喜に対し八億五〇〇〇万円を交付し、これが本件株式譲渡の仲介費用に充てられたとは認められず、被告人についてほ脱の故意並びに違法の意識及びその可能性があったことは明らかである。

原判決挙示の関係各証拠は相互に符合し、格別不自然不合理な点はなく、その信用性は高い。特に、真榮城は、検察官に対し、被告人との間でごたごたが生じるのを恐れて、この件ではできるだけメモをするようにしてきたと供述し、右のメモ等に基づいて具体的かつ詳細な供述をしているものであり、十分信用できる。

被告人は当審において所論に沿う供述をするが、当審事実取調べの結果によれば、被告人は、逮捕された平成七年二月二七日、検察官に対し、「真榮城に対する手数料として八億五〇〇〇万円を支払った」と供述していたが、その後、被告人がいうところの虚偽の自白をする前の段階である平成七年三月八日に、検察官に対し、「これまで真榮城に八億五〇〇〇万円を支払ったと話してきたが、これはうそであり、真榮城に最初に出してもらった領収証は四億円から六億円の間で、その分の金も真榮城に支払ったが、真榮城の取り分である一五〇〇万円か二〇〇〇万円くらいの金以外はすべて被告人のもとに返還させた。返還に当たっては、真榮城に車で運ばせてどこかに置いておかせて取った。その後、真榮城に領収金額が八億五〇〇〇万円の領収証を作成させたが、その差額分は渡さなかった」と供述するなど、既に真榮城に対する八億五〇〇〇万円の手数料の支払について被告人が当審で供述するところと異なる供述をしているのであって、このような被告人の供述の変遷や原判決挙示の関係各証拠により認められる前認定事実に照らすと、前記被告人の当審供述は到底信用できず、所論は採用することができない。

4  所論は、被告人は、幸喜が代表取締役を務める大伸に対し、仲介手数料として実際に二億円を支払ったものであり、これは本件株式譲渡に要した費用である上、被告人には、右の点についてほ脱の故意並びに違法の意識及びその可能性はなかったと主張し、被告人も当審において同旨の供述をする。

しかしながら、原判決挙示の関係各証拠によれば、幸喜は、被告人から架空の領収証を発行するよう要求してきたことから、平成三年九月以降、幸喜が代表取締役を務める大伸が被告人から二億円を受け取っていないのにこれを受け取った旨の領収証を作成して、被告人に交付し、その謝礼として二〇〇万円を受領したこと、被告人は右二億円の架空の仲介手数料を本件株式譲渡に要した費用として計上して所得税確定申告書を提出したことが認められるのであって、右事実に照らすと、被告人が大伸に対し、本件株式譲渡の仲介手数料として二億円を実際に支払ったとは認められず、被告人についてほ脱の故意並びに違法の意識及びその可能性があったことは明らかである。

原判決挙示の関係各証拠は相互に符合し、格別不自然不合理な点はなく、その信用性は高い。幸喜は、これまでみてきた被告人の脱税工作で幸喜が関与したものについては、検察官に対し、いずれも関係各証拠に符合する信用性の高い供述をしてきたものであり、特に、右二億円の架空領収証の作成について虚偽の供述をするとは考え難く、その供述はその具体性、詳細性と相俟って十分信用できる。

被告人は当審において所論に沿う供述をするが、既述及び後述のとおり被告人の当審供述の信用性には疑問があるほか、原判決挙示の関係各証拠により認められる前認定事実に照らすと、前記被告人の当審供述は到底信用できず、所論は採用することができない。

5  所論は、被告人は、山川に対し、従来から株主として被告人に協力してくれたことに対する謝礼などの趣旨で少なくとも一〇〇万円を手数料として支払ったものであり、これは本件株式譲渡に要した費用である上、被告人には、右の点についてほ脱の故意並びに違法の意識及びその可能性はなかったと主張する。

しかしながら、原判決挙示の関係各証拠によれば、確かに、平成二年一〇月一二日、被告人から山川に対し一〇〇万円が支払われ、これに対し山川は領収証を発行しているが、その支払の趣旨は、本件株式譲渡の際、山川が海邦興産の株式一六株の名義人となったことに対する謝礼であることが認められ、したがって、被告人の山川に対して支払った右一〇〇万円は、脱税の協力者に対する脱税工作の報酬であって本件株式譲渡に必要な費用には当たらないと解するのが相当である。そして、右関係各証拠によれば、被告人は右の趣旨で山川に一〇〇万円を支払ったことを認識した上で、右一〇〇万円を仲介手数料であり本件株式譲渡に要した費用であるとして計上して所得税確定申告書を提出したことが認められるところ、右事実に照らすと、被告人についてほ脱の故意並びに違法の意識及びその可能性があったことは明らかであって、所論は採用することができない。

6  所論は、被告人は、海邦興産が全日空リゾートに対して支払うべき違約金五億一三三九万四六一九円を自ら立て替えて支払った後、株式譲受人のうみの園等に対し右立替金の支払を請求したところ、うみの園等は平成二年一一月一四日貸金名下に五億円を被告人に支払ったものであり、被告人は右五億円はあくまで借入金であって、右立替金は未だ回収されておらず、本件株式譲渡に要した費用であると認識していたものであるから、被告人には、右の点についてほ脱の故意並びに違法の意識及びその可能性はなかったと主張し、被告人も当審において同旨の供述をする。

しかしながら、原判決挙示の関係各証拠によれば、被告人は、平成二年一〇月八日、白石商会との海邦興産の株式売買契約を合意解約した際、右合意に基づき全日空リゾートに対し売買違約金五億一三三九万四六一九円を支払ったこと、被告人は、右売買違約金は本来海邦興産が負担すべきものであると主張して、右立替金についてうみの園等から同年一一月一四日に五億円、平成三年二月八日に一三三九万四六一九円の支払を受けたこと、右五億円の支払については、被告人の要求により、株式会社沖縄うみの園が同社の常務取締役を保証人として外間ビルに五億円を貸し付ける旨の信用証書や受領証を作成したが、真実は被告人に対する立替金支払債務の弁済であることを関係人が了解していたこと、被告人は右五億円の売買違約金を本件株式譲渡に要した費用として計上して所得税確定申告書を提出したことが認められる(原判決挙示の関係各証拠は相互に符合し、格別不自然不合理な点はなく、その信用性は高い。)のであって、これらの事実に照らすと、被告人は右売買違約金を既に回収していたものであって、右売買違約金は本件株式譲渡に要した費用とは認められず、被告人についてほ脱の故意並びに違法の意識及びその可能性があったことは明らかである。

被告人は当審において所論に沿う供述をするが、既述及び後述のとおり被告人の当審供述の信用性には疑問があるほか、原判決挙示の関係各証拠により認められる前認定事実に照らすと、前記被告人の当審供述は到底信用できず、所論は採用することができない。

7  なお、所論は、被告人は、捜査段階において、当初は被疑事実を否認し、平成七年三月八日ころまでは納得できる調書が作成されていたが、その後、弁護人からの勧めなどもあって、検察官の主張する事実を認めれば、保釈を許され、執行猶予の判決を受けることができるものと考え、平成七年三月一三日以降、虚偽の事実ではあるが、これを認めることにしたものであり、原審で取り調べた同日以降の被告人の検察官に対する自白調書の内容は虚偽であると主張する。

しかしながら、これまでみてきたところから明らかなように、平成七年三月八日ころまでの被告人の検察官調書の内容は必ずしも被告人の当審供述内容と同じではなく、むしろ、真榮城に対する八億五〇〇〇万円の手数料の支払がなかったという客観的外形的事実を自認している部分もあること、また、被告人は、同月一三日以降の検察官調書においても、他の関係証拠から認められる事実をそのまま認めているわけではなく、例えば、被告人が前記の外間ビルの決算報告書の差替を指示したという点については、頑としてこれを否定するなど本件についての自己の刑事責任を軽減するため税理士に責任を転嫁しようとの供述態度が窺われること、その他原審で取り調べられた被告人の検察官調書が、右の点を除けば、他の関係各証拠によく符合し、格別不自然不合理な点がなく、逆に、被告人の当審供述自体、他の信用性の高い関係証拠に符合することさえなく、不自然不合理な点のあることなどを総合考慮すると、被告人が平成七年三月一三日以降、本件被疑事実が虚偽であるにもかかわらずこれを認めたものとは到底考えられず、むしろ、その動機はともかくとして、本件被疑事実を真実と認識した上で自白したと認めるのが相当であり、したがって、本件被疑事実に関する原審取調べの検察官調書及びこれと同旨の被告人の原審公判廷における供述の信用性は優に認められ、他方、被告人の当審供述は信用性に乏しく、この点に関する所論は採用できない。

8  所論は、被告人が捜査段階で自白し、原審公判廷で本件公訴事実を認めた理由は、前項のとおりであるが、予期に反して実刑判決の言渡しを受けたため、被告人は、真実を訴えて公正な審判を仰ぎたいとの決意を固め、控訴して本件公訴事実を争うに至ったと主張する。

しかし、右のような事情は、刑訴法三八二条の二にいう「やむを得ない事由」に当たらないことが明らかであるから、弁護人が当審において取調べ請求した証拠は、同法三九三条一項但書によりその取調べが義務付けられるものではない。

なお、当裁判所は、実体的真実発見の面も考慮して、弁護人請求の被告人質問等を採用し、取調べたが、右のとおり被告人の当審供述は信用することができず、原審取調べの被告人の検察官調書及び原判決挙示の他の関係各証拠の信用性に何ら疑念を抱かせるには至らなかったことから、当裁判所においては、これ以上刑訴法三九三条一項本文による事実の取調べを行うことは不要と判断し、弁護人請求に係る証人尋問等の請求を却下したものである。弁護人が刑訴法三二八条の証拠として請求した山川作成の陳述書等についてはその立証趣旨によれば自己矛盾の供述を問題とするものでないことが明らかであることからも、これを却下したものである。

以上のとおりであるから、原判決には所論において指摘するような事実の誤認はなく、論旨は理由がない。

二  被告人の控訴趣意中、量刑不当の主張について

所論は、要するに、被告人に対し懲役二年及び罰金一億五〇〇〇万円の実刑を言い渡した原判決の量刑は重きに過ぎるというのである。

そこで、記録を精査して原判決の量刑の当否を検討するのに、本件は、原判示のとおり、被告人が、五名と共謀の上、被告人の株式の譲渡による所得金額が三二億二〇一一万円であったにもかかわらず、株式の一部を他人名義で譲渡したことにして収入を一部除外するとともに、架空の仲介手数料を計上するなどの行為により所得を隠した上、株式の譲渡による所得金額が二億七四〇九万〇三八一円で、これに対する所得税額が五四八一万八〇〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、正規の所得税額六億四四〇二万二〇〇〇円との差額五億八九二〇万四〇〇〇円の所得税を免れたという事案であり、脱税額が巨額である上、脱税率は約九一・五パーセントと非常に高く、被告人の納税義務軽視の態度は甚だしい。本件が国民の納税意識及び国家の租税収入に与えた影響は大きかったと認められ、この一事をもってしても、被告人の刑事責任をゆるがせにすることはできない。のみならず、脱税方法は、前認定のとおり、一方、譲渡に係る株式八〇〇株(譲渡価格四五億円)のうち、二四八株(譲渡価格一三億九五〇〇万円)を被告人の経営する外間ビルや山川の名義で譲渡したことにして収入の一部を除外し、他方、真榮城や幸喜が代表取締役を務める会社に対する架空の仲介手数料計一〇億五〇〇〇万円を費用として計上し、あるいは、売買違約金の名目で全額回収済みの立替金五億円を費用として計上したなどというものであるが、このような収入の一部除外及び費用発生を装うために、被告人は、株式譲渡先に対しては虚偽の売買契約書を作成させ、あるいは、虚偽の信用証書や領収証を発行し、共犯者の山川、真榮城及び幸喜に対しては、架空の領収証を作成させ、あるいは、税務当局からの指摘を免れるために一定額の株式譲渡収入や仲介手数料収入があった旨の確定申告をさせ、立会人同席の上で現実に現金又は小切手を被告人から受領させてはその直後にこれらを密かに被告人のもとに返還させ、特に必ずしも全面的に信の措けない山川や真榮城から返還を受けるときには信用できる幸喜を介してこれを受け取るなどし、さらに、外間ビルを利用した株式譲渡収入の一部除外を工作するに当たっては、同社が従前から右株式を保有していたように装うよう共犯者である顧問税理士に指示して税務署に提出済みの決算報告書を過去六期分にわたって差し替えさせ、税務当局の調査が入ってからは共犯者である税理士に責任を転嫁する姿勢に転じるなどしたものであって、本件は脱税の発覚を防ぐとともに、これが発覚しても税務当局からの追及が自己にまで及ばないよう周到に計画された巧妙かつ狡猾な犯行である。加えて、本件犯行が税務署職員をも巻き込み社会一般に衝撃を与えたものであることも無視することはできない。このような諸事情にかんがみると、本件は、極めて重大かつ悪質な脱税事犯であり、被告人の刑事責任は重大であるといわなければならない。

したがって、原判決が指摘する被告人に有利な情状、すなわち、被告人が関連会社の資産を処分するなどして、本件脱税に係る本税をすべて納付し終わり、三億七〇〇〇万円を超える延滞税及び重加算税についても一部納付し、未納付部分については一定期間換価の猶予を受けたこと、被告人はこれまで多数の事業を展開してきたほか、福祉事業や小中学校、教育等の公的事業に多額の寄付を行うなどの社会的貢献をしてきたこと、被告人が実刑に処せられた場合に被告人の事業に及ぼす影響等、これら被告人に有利な諸情状を十分に斟酌しても、被告人に対し懲役二年及び罰金一億五〇〇〇万円の実刑に処した原判決の量刑が重きに過ぎるとは認められず、論旨は理由がない。

よって、刑訴法三九六条により本件控訴を棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岩谷憲一 裁判官 角隆博 裁判官伊名波宏仁は転補のため署名押印することができない。裁判長裁判官 岩谷憲一)

控訴趣意書

被告人 外間尹誠

右のものに対する所得税法違反被告事件について、控訴の趣意は左記のとおりである。

平成八年六月一七日

右主任弁護人弁護士 早川晴雄

右弁護人弁護士 伊礼勇吉

同弁護士 山田勝一郎

同弁護士 比嘉正幸

同弁護士 中野清光

同弁護士 奥津晋

福岡高等裁判所那覇支部 御中

原判決は、被告人が平成三年の自己所有株式の譲渡に係る所得税を免れようと企て、喜納兼永ほか四名と共謀のうえ、株式譲渡所得が三二億二、〇一一万円(差引修正金額)であったにも拘わらず、山川宗孝ら他人の所有名義を用いて収入の一部除外をするとともに、右株式売買に関する架空仲介手数料を計上するなどの不正の行為により所得を隠匿して、同年分の虚偽の所得税確定申告書を提出し、約五億八、九二〇万四、〇〇〇円の所得税を免れたとの公訴事実につき、検察官提出の証拠によって検察官主張どおりの事実を認定しているが、右は判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認をしているものであり、かつ原判決は、右の誤認に基づく事実を前提にして宣告刑を決定している上、その情状の認定に当たっても、右誤認に基づく不正行為の悪質性を論難しており、また個々の量刑資料に対する評価も不相当であり、従ってその刑の量定も、極めて不当と言わざるを得ない。

よって、ここに、事実誤認及び量刑不当を理由に、原判決の破棄を求めて本件控訴の申立をするものである。

以下にその理由とするところを述べる。

第一 総論

一 本件控訴趣意の基本的問題点について

本来、原判決の事実誤認を指摘するためには、原判決の事実認定の根拠となった証拠の評価の誤りを、弁護人の立場から具体的に証拠に基づいて論証することが訴訟法上の要請(法第三八二条)でもあるが、本件については、原審で取り調べられた証拠の矛盾点を指摘することは後述のとおり可能であるにしても、右証拠自体によって事実誤認を主張することが事実上困難なのである。

すなわち、もともと被告人としては右控訴事実摘示のような所得税を免れた事実は無いのに、原審弁護人の後述のような訴訟戦略的判断に基づく勧奨に応じて検察官に対し虚偽の自白をするとともに、原審公判廷においても真実に反して全面的に事実を認めたものであり、このため原審法廷に顕出され原判決に挙示された証拠自体も、いずれも後述のとおりその大部分が不当な捜査(関係人の取調べに際して検察官の想定する起訴事実に符合させるような事実に関する供述を押しつける等)ないし関係者、特に共犯者の自己保身策によって歪曲或は捏造された事実を記載した信憑性の無い証拠であるのに、原審においては原審弁護人がこれらを証拠とすることにすべて同意してしまっているため、これらの書証を証拠とする原審の認定の誤りを、右のようにそれ自体信憑性に乏しい判決摘示の証拠自体によって具体的合理的に指摘することが事実上極めて困難であり、当審弁護人としては、原審公判廷には顕出されていないが、今後控訴審で明らかにすべく予定している証拠(主として原審で取調済みの前記共犯者ないし関係者の証言及び被告人の供述)によって、原審の認定事実が客観的事実と相違していることを主張せざるを得ないのが実情であり、この点が本件控訴趣意の特異性ということもできることについてまず裁判所の御理解を賜りたいのである。

二 被告人が原審において真実に反し公訴事実を全面的に認めた経緯

原審公判審理が如何にして、実体的真実究明を宗とすべき刑事訴訟理念から外れて右のような不合理な手続に基づく判決で終わる結果となったかについては、いうまでもなく原審の与り知るところではなく、まさに被告人側に後述のような特異な、しかし極めて好ましからざる経緯があったことによるものである。

まず、被告人の検察官に対する自供調書の作成されるに至った客観的経緯を検討してみるに、被告人としては、原審判決の理由中に掲記されているような犯罪事実並びに量刑事情として述べられている事実については、その殆どすべての事実について、右認定と異なる事実認識を有していたのが実態であって、判決書・別紙1記載の個々の勘定科目については、まさに公表金額欄記載の金額が正しいものと認識していたのであり、従ってこれに基づく確定申告書を提出するについて、何ら逋脱の故意を有する余地はなかったのである。

すなわち、被告人は、個々の勘定科目のうち原判決で不正の行為があったとして問擬されているものについては、所得税逋脱を目的とする不正な手段としての経理処理ではなく、海邦興産の株式の一部については、単なる名義のみならず、実質的に山川宗孝と有限会社外間ビルの所有となった経緯が存在するものであり、架空とされる手数料についても実質的に支払ったものと信じていたのであるから、これらの除外したとされる所得の存在或いは架空とされた仲介手数料に相当する所得が自己に帰属するとの認識もしくはこれら所得に対する納税義務の存在自体の認識を欠いており、また勘定科目の或るものについては、専門家である税理士の指導、助言、是認の下に行われたか、もしくは然るべき適切な処理を税理士に依頼し一任していたため、「偽りその他不正の行為」により所得税を免れるとの基本的認識を欠いていた。換言すれば、被告人は、同・別紙1記載の個々の当期増減金額の発生、計上を、事実に即した適法なものと認識していたので、被告人としては、脱税容疑で逮捕されること自体考えもしなかったことであり、逮捕勾留後も右のような所得税の申告に関する自己の認識を検察官に対して主張し続けたのであり、原審弁護人にも接見の際に同様の説明をしていたのである。

このことは、原審第一回公判廷で弁護人が被告人質問の形で、

1 被告人は、事実を認めていますが、今後絶対に事実を争わないですか。

はい。

2 弁護人側の立証は、情状の立証だけでよいですか。

はい。

3 本日の証拠調べで本件の関係者の供述調書の取り調べに同意していますが、これらの関係者に証言させることもしませんか。

はい、しません。

4 これからも事実関係は争わないですね。

はい。

と、異例とも言える執拗な駄目押しをして脱税を認めさせた直後に、

16 あなたは、本件について脱税と思っていました。

いいえ。

17 逮捕されるまで脱税と思わなかったのですか。

はい。

18 結局、節税と脱税の区別が判らなかったのですか。

はい。

19 あなたは、税理士を顧問として雇っていますが、税理士から、あなたがやっていることは脱税だから注意しなさいと言われたことはないですか。

一度もありません。私は、三人の税理士を顧問として雇っています。特に喜名税理士は、私の個人の税金の申告を責任を持ってやっていますが、彼の言いなりにやったことが今日の結果になっています。

という前後矛盾する供述をしているほか、同じ供述で

36 あなたは、吉野検事の取り調べを受けましたね。

はい。

37 取り調べを受けて何か感じましたか。

私は、一時は心が動転して吉野検事にも反論もしました。しかし、現在は吉野検事に心から敬意を表し、感謝しています。吉野検事が、私に「人生は一歩引くこと、家庭を大事にすること、この二つだよ。」と教えてくれました。この言葉は、私にとって大変ありがたく思っています。ありがとうございます。

38 あなたは、当初否認していましたが、その後事実を認めましたね。自供調書は、三月一五日に作成されていますが、自供する気持になったのはその前ですか。

逮捕された当時は、税理士の先生を尊敬していましたので、吉野検事に反論を繰り返しましたが、吉野検事に何度も会っているうちに起訴の二、三日前に心を許すようになりました。失礼な言い方かもしれないが、吉野検事が好きになり、この人に自分の人生を託そう、事実を全て話そうと思い真実は全て話したつもりです。

と述べているところからも明らか(但し自供の動機として述べている内容は、法廷で事実を認めて情状を良くしようとの基本感覚に戻って検察官に迎合したものとなっており、その供述にある「真実」には「真実とは相違しても検察官の想定による」との修飾語を冠するのが正しいのであるが)であり、前述のような被告人の強固な否認の態度が、起訴された平成七年三月一七日の二日前の三月一五日になって急転全面自白をするに至り、同日付で初めて概括的な自白調書が作成され、以後開示された調書だけでも翌一六日付で二通(合計三一丁)、翌々日一七日の起訴日に同日付で四通(合計四四丁)の、夫々にかなり厖大な添付資料の説明も加えた詳細な吉野検事単独による検察官調書が一挙に作成されており、これだけの複雑な事実関係について右のような短期間に果たして被告人の供述を慎重に聴き出したうえ、これを整理して右の大量の供述調書を作成することが常識的、物理的に可能なのか、尠なからず疑問を抱かざるを得ないのであり、むしろ被告人が本件を認めることにした時以降、被告人としては自己の記憶を整理しながら逐次供述したのではなく、既にそれまでに検察官がかくあるべしと想定した脱税のストーリーが出来上がっていたのを一方的に聞かされ、被告人は何らの反論も訂正もする意欲を喪失して唯々諾々としてその旨記載された調書に署名捺印したものに過ぎないことの現れと見ることができるのであり、逮捕後起訴迄の長期間の身柄拘束期間中の大部分の捜査過程で、被告人がいわゆる否認段階(実質的には真実を訴えていた段階)においてどのような供述をしていたのかについては、全く検察官調書が開示されておらず、他方、被告人の自白の裏付証拠として検察官が提出した共犯者ないし参考人の検察官調書で、被告人のいわゆる自白以前に作成された調書としては、共犯者では島袋昭良(二月二六日付一通、三月六日付三通)、真栄城保(二月二五日付一通)の二名のみで、何れも被告人供述調書の作成者吉野検事によるものであり、参考人としては西銘順輝(三月一二日付馬場検事)、名嘉清次(三月一四日付一通、竹中検事)、白石武治(三月一三日付、竹中検事)、高峯宏之(三月一二日付二通、何れも被告人と同じ吉野検事)、島袋清正(二月二六日付一通、吉野検事)の五名についてであるのに対し、その他の共犯者山川宗孝(三月一六日付、山田検事)、幸喜伸徳(三月一五日付二通、三月一六日付二通、何れも山田検事)、喜納兼永(三月一六日付一通、三月一七日付一通、竹中検事)の三名及び参考人西銘順輝(三月一六日付一通、竹中検事)、中山吉一(三月一七日付、馬場検事)の二名は何れも被告人の自白後起訴日迄の三日間に一斉に供述調書が作成されており、被告人の虚偽自白調書の記載内容との調整が急遽計られたことが窺われる。

このように被告人が、自己の認識した事実に反する、いわば虚偽自白を、何故に勾留満期(起訴日)の直前に至って俄に検察官に対して行う決意をしたかについて、その直接かつ強引な誘引となったのは、遺憾乍ら原審弁護団が、被告人の本件脱税容疑については本来これに該当しないものであることを、被告人との面接の過程で十分承知していたのであるが、本件株式の譲渡ないしこれらの取引を含む所得税申告に関与した顧問税理士や事業協力者で共犯に擬せられている者達が、自己の責任を被告人に転嫁して保身を計ろうとする空気の強いことその他後述のような本件の特異事情などを忖度し、被告人が万一否認のまま起訴された場合は情状悪しとして実刑に処せられることが確実に予測されるのに対し、例え真実に反することとなっても容疑事実を全面的に認め、法廷でも全く争わない形で改悛の情を示し、未納税金の納付、各種善行寄付などの情状に訴える方策を執れば略々間違いなく執行猶予の恩恵に浴することができる客観的状況下にあるものとの深刻かつ慎重な判断に基づき、被告人をして虚偽自白を納得せしむるに如かずとの結論に達し、勾留満期直前に至って被告人に右事情を解説したうえ検察官の脱税容疑の取調べに迎合して自白調書にも署名するよう強く勧奨したのである。被告人としても、身柄拘束により厳しい取調べを受ける間に、

(第四回公判調書中の被告人供述調書)

27 被告人は、勾留中に体調が悪かったと言っていましたが、保釈後はどうですか。

保釈直後は大変悪かったです。現在、大浜第一病院と西武門外科と東京の麹町にある麹町胃腸科に通っています。大浜第一病院で二日間かけて人間ドックに入り検査を受けました。その結果は、心臓の不整脈、十二指腸ポリープ、胃炎、外耳炎等でした。その外二、三箇所は精密検査の途中です。

28 糖尿病はどうですか。

投薬するかどうかのすれすれなので、太りすぎやストレスに注意しなさいと言われました。

29 治療の予定はどうですか。

今週の月曜日から入院しなかいと言われていましたが、この事件のことがありますので、来週の月曜日から入院または通院するように手続を進めています。

30 手術する予定もあるのですか。

検査の結果によります。

との被告人の供述にも窺われるように、最近まで尾を曳いている程に勾留による体調を崩していたこともあり、また

(原審第一回公判被告人供述調書)

58 第一回公判後保釈請求をして当裁判所は保釈許可をしたが、抗告裁判所である福岡高等裁判所那覇支部は保釈を取り消しましたね。あなたは、福岡高裁の決定謄本を見ましたか。

はい。

59 その決定の理由に、あなたの供述として「今まさに展開しようとしている中国ビジネスのことを考えれば嘘でもいいから脱税したことを全部認めて事件を早く片付けてしまいたいくらいの気持ちである。」とか「ただ認めても真実ではないから関係人と話が食い違ってしまうので、関係人と会わしてもらえないか。そうすればうまく話を付けて事件を早く終わらせることができる。」と供述したと記載されているが、そういう供述をしたことは間違いないですか。

取り調べの時にそう述べたことは間違いありませんが、中国に行くために嘘のことをのべたのではありません。

60 事件を早く終わらせるため関係者に会わせてくれと言ったのは、どういう気持ちで言ったのですか。

そう言ったことは間違いありませんが、私は、関係人の三人が口をつぐんで苦しい思いをしているだろうと思い、私が、彼らに全部話したよと言えば彼らも安心して真実を話してくれるだろうという気持ちで吉野検事には話したつもりです。

との原審法廷での被告人の供述に端無くも露呈しているように(事実を認めた形になっている原審の手前、「真実」と「嘘」を逆に表現しているが)、自己の展開しようとしている各種事業が長期の受刑により挫折することに何よりも危惧を感じた被告人が、右の弁護人の慫慂に動かされて深く悩んだ末、理を歪げて実を把ることに意を決して、検察官の意を迎えることとなったものである。

右原審公判廷での供述中、60の問に対する答は、「彼らも安心して真実を話してくれるだろうという気持」の「真実」を「嘘でも私の話に口裏を合わせた内容」と読み替えれば、虚偽自白をした者が苦しさのあまり他の関係者に口裏を合わせるよう、捜査官ないし弁護人を通じて懇願するのと全く同じケースであることが理解できるのである。

また、原審第一回公判廷での

67 検事に暴言を吐いたことに対してどう思いますか。

心身が混乱した状態でしたので、吉野検事に暴言を吐いて申し訳ないと思っています。暴言を吐いたのも一瞬の出来事ですから、その夜の取り調べの時に土下座してお詫びしたと思います。

という供述も、被告人が前述虚偽自白をするに至った際の取調検察官との対応の異常さが「土下座」という形に現れたことを示すものであり、取調官の説得に感じて真剣に事実を自白し始める被疑者の態度とは程遠いものがある。

また前記60の質問に対する答の供述中にある「関係人の三人」との口裏合わせを考えたとの点は、前述の被告人が虚偽自白に転じた三月一五日以降に供述調書の作成された共犯者も山川、幸喜、喜納の三名であることと怪しくも符合していることに徴すると、被告人が勾留満期寸前に「落ちた(自白した)」のを好機として、これら被疑者の取り調べに当たっていた吉野、山田、竹中の三検察官の間で急拠供述内容の調整が行われ乍ら、被告人の虚偽自白及びその裏付となるような形の共犯者三名の供述調書が検察官の想定する脱税の筋書き(被告人が中心となり、日頃から暴力団的言動の多い被告人の威迫に近い指示によってやむなく共犯者らも被告人の脱税工作に協力した)に従って作成された上、後述のように何らかの特異事情によって、起訴を被告人一人に絞って終局処分の行われることになったものであることが優に推認し得るのである。

三 被告人が、原審の判決言渡を契機として、真実に基づき審判を受けるべく翻意するに至った経緯

右のように、被告人が原審弁護団の指導に基づき、原審で公訴事実を全面的に認めた結果、原審弁護団はさらに、検察官から事前開示された書証についても、そのすべてについて被告人に閲読させることを敢えて避けたまま、検察官請求証拠をすべて同意し、その証拠調べも極めて簡略に行われるという、弁護人側の些か異例とも言うべき対応がなされたため、被告人としてはこれら書証の各供述者が、検察官に対してどのような供述をしているのか全く知る機会が無いまま、原判決の宣告を受けるに至ったものである。

然るところ、原審弁護団の勧奨に従って虚偽自白に徹することとした被告人の期待に反し、原審では厳しい量刑の実刑判決が宣告され、被告人は愕然とするとともに、原審認定の根拠とされた書証を初めて閲覧することになったところ、これら関係者の供述内容が、被告人の凡そ予測することも不可能な程事実が歪曲誇張されたうえ、如何にも被告人が悪質な暴力団関係者で有るかの如き誹謗中傷的言辞までが各人各所に繰り返し強調されており、本件脱税とされる事実についてもすべて被告人の指示ないし強要によって敢行されたと理解され兼ねない内容の供述記載となっていて、これらを総合すれば極めて悪質な脱税事犯と判断されるのが当然とも思われる証拠関係となっていることを発見するに至り、これら供述内容のあまりの非道さに納得できないのは勿論、判決結果自体も全く承服できないところから、遅ればせ乍ら事実を上訴審で訴えて公正な審判を仰ぎたいとの決意を固めるに至ったものである。

原審の信憑性に乏しい証拠によって判断する限りでも、これらの供述記載には後に各論で詳述するような矛盾点が数多く存在するのであるが、その典型的な事例を挙げれば、被告人の顧問税理士である島袋昭良及びその従兄弟である現職の国税職員島袋清正によって行われた刑法第二五八条の公用文書毀棄(所轄税務署に提出保管されていた外間ビルの六期分の貸借対照表の差し替え)という、被告人始め部外者には凡そ考えも及ばない仮装工作を、被告人の指示ないし承認のもとに行われたかの如く解され兼ねない被告人及び島袋らの供述記載が見られるのは、凡そ常識に反し合理性を欠くものであることが明らかであり、その他被告人の供述調書自体にも、前後の矛盾、曖昧さが各所に指摘できるのである。

しかも、本件捜査処理の経緯についても、その不当、不合理性が窺い得るのであって、右のような公用文書毀棄に該当する重大な犯罪行為を敢行した島袋税理士が、本件脱税の共犯者とされ乍ら唯一人身柄拘束もされることなく取調べを受けたのみならず、何らの刑事責任も追及されることなく終わり、また他の身柄拘束を受けた共犯者、特に本来ならば不正防止の公的義務すら負担する税理士の脱税共犯行為についても結局刑責を問われることなく終わり、すべての責任が被告人一人に集中されて起訴される結果となっている点は、従来の同種事犯の処理としても異常でさえあり、少なくとも奇異に感じざるを得ないのであって、このことは、捜査の方向付けが、右の国税当局の重大なスキャンダルともなり兼ねない税務職員の不正行為が表沙汰になるのを回避したいとの配慮によるものか、本件脱税の刑責を当初から専ら被告人一人に集約されるような方向で、関係人の供述を国税査察当局および検察当局自体が敢えて取り纏めようとしていたのではないか、とすら考えざるを得ない状況もあるというのが本件の特色の一つでもあるのであって、これらの不明朗な捜査経緯も、関係人の供述を吟味し、本件の真実を解明するうえで無視できないものがあると信ずる次第である。

四 以上述べたほか、被告人の個別勘定科目に関する所得としての認識の有無に関連して、弁護人としては後述のとおり、もともと収入除外、架空支出が存在せず、不正の行為のなかったことを主張立証しようとするものであり、それが真実であることを確信するものであるが、被告人が曲りなりにも原審で全てを認めたという、自ら招いた不利な情状が被告人に帰責されるべしとの事情もあることから、万一右主張が全面的には認められないにしても、少なくとも被告人としてはそれが不正な行為であることの認識-故意が無かったものであることは間違いない事実であり、この点については理論上、個別認識説と概括認識説とによって結論が異なるものであるとは言え、判例上でも一部の科目につき事実の錯誤として故意の阻却を認めたものが少なくないうえ、然らずとするもその錯誤は少なくとも情状面には影響があることも裁判例の示すところであることにも鑑みて、本件の審理の過程で被告人の刑責の有無、程度を判断されるに当たって、当審の公正にして真実に即した十分な御理解と御裁断を賜りたいのである。

五 また、言うまでもないことながら、本来証拠に対する同意は、伝聞証拠に証拠能力を付与するだけであり、その証明力は、別途、慎重に吟味されなくてはならないとされている。その意味において、原審弁護団の行った同意も、右証明力吟味のための供述者に対する反対尋問権までも完全に放棄したものではない。そして、同意がある場合でも、証拠の証明力が著しく低い場合には、刑事訴訟法第三二六条第一項所定の「相当性」の要件を欠き、その供述は証拠能力を取得しない(最判昭和29・7・14刑集8・7・1078)のである。

従って、控訴審の審理においては、関係供述者に対して必要な反対尋問が実施され、調書に記載された伝聞供述の信用性が改めて充分吟味されたうえで、「相当性」要件の具備についても慎重な判断がなされなくてはならないと考える。

六 以上のとおり、原審で事実を認めながら当審でこれを否認するという被告人の無思慮が原審の判断を誤らせる結果を招いたうえ、当審のお手数を煩わすこととなったものであり、事後審である当審において、一審で主張提出しなかった証拠を改めて提出することの法律上の権利は必ずしも肯定されるものではないが、少なくとも被告人としては、原審において提出し得る証拠のあることを知り得ず、原審判決後に初めてこれを知ったものであることからすれば、原審で取調済みの書証の供述者を当審で証人申請することも許されて然るべきかと考えられる上、所詮は、本件被告人の自業自得の結果であるにしても、冤罪無からしめるのが我が国刑事司法の基本理念であることについて御勘案戴きたいことを、僣越乍ら敢えて上申するとともに、当審裁判官におかれては、正義にかなった適正な判決、被告人が納得のいく妥当な判決を宣告して戴けますよう弁護団一同強く希望する次第である。

【事実誤認】

第二 山川宗孝による株式譲渡について

原判決は、山川宗孝(以下「山川」)による海邦興産株式会社(以下「海邦興産」)株式の譲渡について、これを収入除外のための、被告人による不正行為であると認定しているが、山川は、海邦興産設立当時から、持株数一六株の株主だったものであり、その後、被告人から一六二株の株式の贈与を受け、株式譲渡時には正式に一七八株の株主となっていたものであって、同人による株式の譲渡は、なんら被告人の不正行為に該当しない。この点、以下に敷衍する。

一 当初の「一六株」について

1 株式会社の発起人は、商法上「定款に発起人として記名押印した者」と定義されるところの形式的概念であり(通説)、実質的に会社の設立に関与したか否かは関係がない。発起人となった者は、その義務として株式の引受けをしなくてはならず、株式引受人は会社設立(設立登記)によって、自動的に株主になる。

ところで、山川は、海邦興産設立時にその定款に発起人として署名し、かつその定款において一六株の株式の引受けを行なっている(定款第二九条)のだから(甲二一・山川調書・添付資料七)、商法の規定からして、海邦興産の発起人、株式引受人に他ならず、その後の会社設立(設立登記)によって、海邦興産の正規の株主になったものであるということができる。

2 もっとも、株式引受人は、引き受けた株式の発行価額の全額(山川の場合、一六株×五万円=八〇万円)の払込みをしなくてはならないところ、山川は、これに該当するものとして、海邦興産設立前の昭和五九年に被告人に二〇〇万円を支払っている(甲二一「七」)。

この点、山川は、右金員の趣旨について、将来ゴルフ会員権を優先的に譲渡してもらうための寄付であると供述している。しかし、当時、既にカネボウ化粧品沖縄販売株式会社(以下「カネボウ」)に対して数億単位の債務を負うに至っており、公共料金の支払いにも苦労していた(同「五」)という山川が、右供述のように、支払いに対する対価の存在、内容が曖昧な二〇〇万円もの金員を容易に支払うとは考え難く、また、実際、その後において、本件ゴルフ会員権を山川に優先譲渡するといった話が全く出ていないことも併せ考えると、右供述は極めて不自然で信用性がない。

むしろ、右二〇〇万円を支払った直後の翌昭和六〇年の四月には、海邦興産の定款が作成されて山川が株式引受人になり、株式の払込み責任を負うに至っていることを考慮すれば、山川の右支払いは、直接にはまず海邦興産の株式払込金の趣旨であったと見る方がよほど合理的である。

この点につき、山川は、右支払いを株式払込金であるというには時期と金額が整合しないという(同「七」)ので、まず、その時期についてみるに、株式会社設立には七名の発起人が必要であった(当時)ことから、海邦興産の設立を企図していた被告人が、設立の前年ころから、発起人の候補者に話を持ちかけ、予め払込金を預かることは何ら不自然ではないし、また、この程度の時間的ズレを問題にするのであれば、前述のゴルフ会員権の優先譲渡という話は、さらに大きく時期がズレて整合しない話であると言わざるを得ない。

次に、金額についてみるに、右金銭支払の時点では、いまだ設立条件が具体的には詰められておらず、発行株式の額面も株式数も決まっていなかったのであるから、右の金額が、必ずしも、将来の引受株式数に見合うものでなくとも、何ら不合理ではない。その後、山川の引受株式数が一六株と決められ、払込金が八〇万円と決められたが、山川は、近い将来の株式の値上りを見越して、残りの一二〇万円を問題にしなかったのである。実際、これら株式が沖縄うみの園その他(以下「国場」)に売却される時には、一株当り約五六〇万円と評価されるに至っている。

以上を通観するに、山川は、海邦興産の事業展開による純資産の増加が見込まれることを期待し、発起人ひいては株主となることを前提として、自己の調達可能なぎりぎりの金額として、二〇〇万円を提供したのであり、被告人も山川の右意図を汲んで、山川に発起人ひいては株主の地位を与えたということができる。

3 海邦興産は、株式総会を定期的に開催していたが(甲三・浦崎調書)、山川は、これに出席するなどし、形式、実質をともに具えた真実の株主として実際に行動していた。他方、山川は、海邦興産の取締役にも就任し、その立場の行動もしていた(甲三)が、その後、カネボウとの兼職になることから、これを辞任している。このように海邦興産との関係について、清算すべき点は清算する中で、山川が、引続き株主の地位にあったのは、これが、何ら清算を要しない実質的な地位だったからにほかならない。

4 ところで、山川は昭和六二年の「念書」(甲二一・資料八)において、自己の有する株式が実質的には被告人の所有であるとの文書に署名しているが、これは、被告人が合資会社白石商会(以下「白石」)との間で株式の譲渡交渉をなすための(後には被告人が白石に対して「株主たる地位確認訴訟」を提起するに際しての原告の地位を一本化するための)便宜上の形式的措置に山川が協力したものであり、実質的な株主の地位を放棄したものではない。だからこそ、白石との和解が成立したその日から、山川は、株式数一六株の実質的株主として登場し、同日の国場に対する譲渡契約書類にも、その立場で早速、署名捺印をしているのである。

この点、山川以外の株式引受人は、山川と違って、現実に金銭の提供をしておらず(甲二・西銘調書、甲三・浦崎調書、甲四・津波古調書、甲九・松岡調書)(外間義典と西銘雄治は未成年である[甲五、甲七])、発起人の人数を集めるためだけの単なる名義貸しだったため、白石との問題が解決した後も、名義をそれぞれに戻したりして、これらの者を株主として取扱う必要がなかったのである。

仮に、被告人が単に自己の税負担を軽からしめるために、名義上の株主を収入除外の手段として利用するのであれば、山川だけでなく他の株主をも利用した方がさらに「効果的」だったはずなのに、実際には、山川だけが国場との譲渡に登場しているのであって、このことは、山川が単に名義だけでなく実質的にも海邦興産の株主だったこと、被告人に名義上の株主を利用して収入除外を行なおうという意図がなかったこと、またそれが不可能であったことを示すものにほかならない。

二 後の「一六二株」について

1 山川の株式数は、当初の一六株から、後に一六二株増加し、国場との最終売買時には、合計一七八株になっていたが、右増加は、被告人から山川への贈与が行なわれた結果にほかならない。

2 被告人は、不動産業者として、耳学問によるごく断片的な税の知識しか有しておらず(一回・被告人5)、ましてや税務処理に関する具体的な知識などはなく、また、これについて特別に勉強をしたこともなかった。その結果、被告人は、負債と損失(経費)の概念を混同していた。そして、被告人は、山川が約一〇億円の負債を抱えていると考えていた。そこで、被告人は、山川に株式を贈与し、山川に(従来からの一六株分の譲渡代金も含めて)合計約一〇億円の譲渡代金を取得させれば、その収入と負債(被告人の認識では損失、経費)が相殺され、合法的に、山川の譲渡収入に対する税金納付を免れさせもしくは大幅に軽減化できると考えた。そして、その「税の問題から解放された一〇億円」を山川から借入れ、のちに利息を付して山川に返済していこうと考えた。さらには、このように、巨額の現金をすぐに借入できるのであれば、山川に多少の税負担が生じた場合には、その点も含めて被告人が面倒を見てもよいと考えた。

被告人から山川への株式譲渡は、右のような認識を基にし、被告人なりの動機に裏付けられた、私法上有効な贈与によるものである。

三 国場への売却後の山川の行為

1 以上から、山川は、一七八株の株式すべてを有効、適法に取得したものであり、山川は、これをすべて国場に譲渡した。そして、国場に対する譲渡代金として受領した小切手のうち、まず山川は、受領当日、六億円分の小切手について、これを自ら、(甲二二・幸喜調書「五」)。これらは、単なる形作りではなく、まさに、自分の株を売った代金の小切手だったからこそ、山川が自分自身で裏書、換金したというべき性質のものである。

2 もっとも、山川は、株式譲渡収入に見合う金額の所得税の申告をしていないが、これは、申告時点における山川独自の判断によるものであり、要は、山川が納税額を準備できなかったから、といういわば単純な理由によるものである。山川調書(甲二一)でも、被告人は、山川に対し、株式譲渡収入について「申告をしろ」とも「するな」とも言っておらず、全く無関心である。

しかし、山川による株式譲渡が、被告人の収入除外目的の不正行為であったならば、被告人は、むしろ全体の辻褄を合わせるために、山川の申告内容に立ち入ってこれを積極的に指導する筈である。にもかかわらず、実際、被告人がそのような指導をしないのは、被告人から山川への株式贈与が、正規の贈与だったために、その後、これを他に譲渡した収入について山川がいかなる税務申告をしようと、それはもはや被告人とは関係のない話であると被告人が認識していたからにほかならない。

3 山川は、結局、申告納税額約二九一万円で確定申告を行ない、右金額を納付したが、右納付に際して山川は、幸喜伸徳(以下「幸喜」)から納税分として四〇〇万円の現金を受領しており(甲二一「一六」)、幸喜は、右四〇〇万円について、被告人から、山川納税分として渡された六〇〇万円のうちから山川に支払ったものと供述している(甲二二「七」)。これは、被告人が、先述のように、山川に多少の税負担が生じた場合には、その点も含めて被告人が面倒を見ようと考えていたことの現れである。

4 被告人は、幸喜を通じて、山川が小切手から換金した一〇億円の現金を借入した。あえて幸喜を通じ現金で授受したのは、被告人の名が表面に出ると従来から取引のあった琉球銀行から預金の依頼が確実に来ると考えたからであり、それ以上の他意はない。被告人は、この現金を東京に持ち込み、東京のビジネスに利用しようとしていたので、琉球銀行からの預金依頼を煩わしいものと考えていた。

四 まとめ

以上のように、山川による株式譲渡は、適法に山川の所有に帰属するに至った株式を、山川が国場に譲渡したという性質のものである。従って、その収入(及びこれに関する株式取得価額並びに有価証券取引税)は当然、山川に帰属するものであって、被告人に帰属する収入(同)を、被告人が不正行為によって除外したというものではない。よって、この取引の実際額は、公表金額に一致する。

第三 山川に対する仲介手数料の一〇〇万円について

一 公表金額には、山川に対する手数料として一〇〇万円が計上されているが、調書上も明らかなとおり、山川に対しては、従来から被告人に株主として協力してくれたことに対する謝礼、今回被告人から株式の贈与を受け自己の負債(被告人の認識では損失、経費)と相殺して被告人が借入できる現金を確保してくれることに対する謝礼などの趣旨で、右金額を上回る額(納税分としての右四〇〇万円を除いても一一〇〇万円)が支払われており、被告人はそのうちの一〇〇万円を手数料として計上した。

二 まとめ

従って、右は、架空の手数料ではなく、実際の資金の動きを伴った現実の経費であり、公表金額に誤りはない。

そして、仮に、これが税務上、経費性を否定されたとしても、被告人は、本件申告の実務を税理士に一任しており、右が計上されていることの認識(不正行為の認識)を欠いていた。

また、その結果、被告人には、本件に関する違法性の意識もその可能性もなかった。

第四 外間ビルによる株式譲渡について

一 海邦興産の設立に当っては、一株五万円で八〇〇株が発行され、四〇〇〇万円が払込まれたが、被告人には、右のうち、山川が支出した一六株分を除いた残りの分は、実質的には、有限会社外間ビル(のち株式会社に組織変更、以下「外間ビル」)が、その計算において支出したという記憶、認識があった(乙五・被告人調書「二」)。

しかし、被告人は、法人が他に出資して別の法人を設立することができるとは知らず、法人の株主は個人に限られるものと思っていたので、海邦興産の株主としては外間ビルの名を出していなかった(同「二」)。

二 しかるに、被告人は、その後「不沈森ビル」という本を読み、法人も会社設立ができることを知ったので、右の被告人の記憶、認識を島袋税理士に相談したところ、島袋税理士は、全体のうち七〇株くらいなら、外間ビルで持っていた形の経理処理ができると回答した(同「四」)。そこで、被告人は、その処理を島袋税理士に委託したが、そのための具体的方法については、島袋税理士に任せきりにしていた。被告人は、島袋税理士が、修正申告その他何らかの合法的なやり方で右処理をするものと信じて右一任を行なったものであり「まさか、違法なやり方でやっているとは思いもしませんでした」(同「五」)。島袋は、税理士という税の専門家であり、かつこれまでも被告人が信用して相談や依頼をしていた相手であるから、被告人は、右の件についても、当然、島袋税理士が、合法的な範囲内でなしうる処理をするという大前提に立ってその委託をした。

三 島袋税理士は、右の処理を、過去に税務署に提出した決算報告書の差替えという違法な方法(公用文書等毀棄に該当する)で行なったが、被告人は、島袋税理士が、委託した案件を処理するために、右のような方法を取っていること自体知らなかったし、また(違法な処理にせよ)そのような方法があること自体を知らなかった(同「五」)。被告人は、本件で国税査察官の質問を受けている時に、査察官から指摘されて初めて、右差替えの事実を知った。

勿論、被告人は、右について島袋税理士に指示などはしておらず、この点は、島袋税理士も認めている(甲二六・島袋調書「一」そうした差替えというやり方について、はっきり外間氏の方から指示してきた訳ではありませんでした。「四」確かにはっきり差替えという方法を言い出したのは、外間氏よりも私の方が先だったかもしれません。「四」外間氏は………絶対に自分からは、はっきりとそうした指示をする人ではありませんでした)。被告人は、差替えなどという方法自体知らなかったのであるから、被告人からそのような指示ができるわけがないことは明白である。

四 以上から、本件差替えは、島袋税理士が、自ら発案して実行した行為ということになる。そもそも、税の専門家であり国税OBでもある税理士としては、依頼者の要求が違法であると判断すれば(あるいは本件のように違法行為をしなければその要求を実現できないと判断すれば)、これを指導し是正させるべきなのに、島袋税理士は、それをしないばかりか、自らその違法行為(差替え)自体を実行しているのであって、本件における島袋税理士の責任は極めて重大なものがある。

島袋税理士は、調書で「私は、もはや、外間氏の言うとおりやるしかないと思いました」と犯罪に手を染める決意を述べているが(甲二五「一〇」)、この前後をいくら読んでも、なにゆえ、ここで、島袋税理士が、そのような悲壮な決意を固めなくてはならないのかが全くわからない。被告人に対する恐怖感といっても、具体的に何が怖いのかが不明であるし、また、仮に何らかの恐怖感を抱いていたとしても、それが、専門家の職を賭してまで犯罪(差替え)を実行させる程のものであったとは、到底読めない。ましてや、前述のように被告人が明白な差替えの指示などはしていないのに、単なる恐怖感から、税理士が、差替えを着想し、実行することなどはあり得ない話である。

結局、本件について、島袋税理士が、右程度の曖昧な動機付けしかできないのは、具体的な依頼者の指示や委託がないのに(あったとしてもこれを是正すべきだがその点はさておく)、専門家にあるまじき行為をしてしまった理由を、すべて被告人の責めに帰そうとする無理な供述態度によるものと言わざるを得ない。

五 右差替えの後、これを知らぬまま、被告人は、平成三年度の個人所得の確定申告書の作成を喜納税理士に依頼した。被告人は、結局、本件を、島袋税理士、喜納税理士が、適法に処理したものと認識して、右確定申告書を提出した。

六 まとめ

以上、本件株式譲渡収入のうち七〇株分を外間ビル名義で計上し申告したのは、実質的な出資者である外間ビルを、真実の通り、税務申告上も適正に表示しようという態度に出るものであり、公表金額に誤りはない。

仮に、右の税務処理が認められなかったとしても、被告人は、七〇株分が自己の所得に帰属しているという所得の認識(これに対する納税義務の認識)、本件で差替えが行なわれているという不正行為の認識を欠いており、逋脱の故意がない。

また、被告人は、本件の処理を、島袋税理士、喜納税理士という二名の専門家に相談、依頼した上で、その指導の下に処理しており、そこにまさか違法性があるとは意識しておらず、違法性の意識もその可能性もなかった。

第五 有限会社沖縄大伸に対する仲介手数料二億円について

一 原判決は、被告人が海邦興産株式会社の株式譲渡にかかる諸経費として、架空の仲介手数料を計上し、これにより計一〇億五一〇〇万円の所得を隠した旨認定し、この中には沖縄大伸に対する二億円の支払も架空であるとしている。しかし、次に述べるように、被告人は有限会社沖縄大伸に対して二億円を実際に支払っており、それは本件海邦興産株式の売却に必要な費用といえるものである。

二 被告人の平成三年分の確定申告書に添付された株式譲渡明細書中には、譲渡経費として沖縄大伸に対する二億円の仲介手数料が計上され、平成三年三月一〇日付の領収証が沖縄大伸から被告人に対し発行されていることは証拠上明らかである。ところが、幸喜伸徳の平成七年三月一五日付検面調書(甲三五)では、右領収証は脱税を意図して行った架空のものであることを述べており、また、被告人の平成七年三月一七日の検面調書(乙六)でも、その旨を認める供述になっている。

しかし、既述のような事情で、幸喜伸徳の調書の信用性については原審の裁判手続において全く検討されていない。同人が、国税局での取り調べを長期間にわたって受けていること、本件の共犯者として逮捕拘留されており、単なる参考人や目撃者として取り調べを受けていたわけではないこと、本件事案は複雑で、それに加えて取調時に四年も前のことを思い出さなければならなかったこと、同人と被告人は頻繁に会い、本件に限らず金銭のやりとりを盛んに行っており、金銭授受の状況、日時など何時どのような行動をしたかについて混乱しやすい状況にあったこと、関係者が多数おり、その者らの供述内容には食い違いが多かったはずであり、限られた時間の中でそれらを合わせるためにかなり厳しい取り調べがなされたことが推認できること、幸喜の供述内容を他者のものと照らし合わせてみても、少なからず食い違いが見られること、供述内容にも不自然で合理性のない点が見られることなど、同人の調書の信用性を疑わせる事情は実に多い。例えば、幸喜は、右調書ではほとんどの行動は被告人に指示されて、被告人の言うとおりにまるで操り人形のように動いた旨述べているが、眞榮城の調書(甲三三)や山川の調書(甲二一)等では、かなり具体的な指示・行動を幸喜自らがしており、とても被告人の指示をそのまま伝えるだけの立場と読みとることはできないなど、本件への関与の仕方についてもかなりの食い違いが見られる。現に、弁護人が幸喜に右調書の内容を確認したところ、自分の認識とは全く異なること、真実に反することが多数記載されている旨回答している。

三 被告人が沖縄大伸に仲介手数料として渡したとする二億円は、架空のものではなく、現実に沖縄大伸に手数料として支払われたものである。幸喜は被告人と二〇年来の付き合いをしており、両者の間で金銭の貸借や土地の売買等の取引を頻繁に行うなど、公私ともに親しい間柄であった。被告人は幸喜をたいへん信用しており、様々な仕事を幸喜に頼んでいたことは眞榮城保の供述調書(甲三三)、山川宗孝の供述調書(甲二一)、幸喜伸勇の供述調書(甲二三)等からも明らかである。幸喜は、海邦興産がりゅうぎんベンチャーキャピタルから借り入れをしたときの被告人への援助、海邦興産株を国場に売却するときの、国場側の知り合いを通じて得た情報の供述、白石商会との裁判の絡みで、被告人が恐れている人物に対する対策及びその人物との折衝、山川からの現金の受け取りと、各方面への金の支払いなどをして被告人を助けた。幸喜は、本件海邦興産株売却のいわば陰の部分で大きな働きをしたのである。殊に、ある人物との折衝では、被告人は、幸喜によって命を守ってもらったと思っている。被告人は、幸喜がいなければ本件海邦興産株の売却は不可能だったと確信している。そのような事情があり、幸喜は被告人に対し自らの取り分として二億円を請求し、被告人は、命の恩人である幸喜に対してその額を現金で支払ったのである。

四 まとめ

したがって、右二億円は架空の手数料ではなく、実際の資金の動きを伴った現実の経費であり、公表金額に誤りはない。

仮に、これが税務上、経費性を否定されたとしても、被告人は、少なくとも海邦興産株売却に伴い支払う必要があった金銭だと確信しており、課税対象となる金銭だとは思っておらず、逋脱の故意を欠いている。また、被告人は、本件申告の実務を税理士に一任しており、右が計上されていることの認識(不正行為の認識)を欠いていた。

その結果、被告人には違法性の意識もその可能性もなかった。

第六 有限会社ジャパンシステムに対する仲介手数料八億五〇〇〇万円について

一 原判決は、被告人は有限会社ジャパンシステムに対して八億五〇〇〇万円の架空仲介手数料を計上して税務申告したと認定している。しかし、次に述べるとおり、被告人は、眞榮城保(ジャパンシステム代表取締役)又は幸喜に対して合計八億五〇〇〇万円を交付し、これを海邦興産のゴルフ場許認可申請の協力金などとして現に関係者機関に対し交渉してくれた数名の者に支払いをさせている。八億五〇〇〇万円については、少なくとも被告人の手元に戻ってきてはおらず、海邦興産に関与した者らに渡っているのである。

二 眞榮城に対する四億五〇〇〇万円

1 被告人から眞榮城に対し、四億五〇〇〇万円が実際に手渡されたのは、眞榮城の調書(甲三三)等からも明らかである。眞榮城は幸喜の指示に従い、これをリマレストランの駐車場に自動車を置く方法で幸喜に渡したと述べている。これに対し幸喜も、この車を被告人の指示により取りに行くと被告人がいて、その後プラザハウスのマクドナルドまで被告人の指示により車を運転し、その後被告人の指示により被告人の車に金を積み替えた旨述べている(甲三四)。しかし、幸喜がここで述べている行動及び体験は、あまりにも非合理的であり、現実離れしている。眞榮城の供述と事実関係を合わせるために、かなり無理をした取り調べと調書作成が行われたことは明らかであるし、この供述ひとつを見ても、幸喜は取り調べ時かなり混乱していたことが窺われる。前述のように、幸喜の供述調書には、信用性を疑わせる事情が多数存在する。

そもそも、眞榮城に架空経費を計上するのならば、架空の領収証を作れば足りるのであって、実際に金銭の授受を行う必要は全くないし、金銭が動いたことを残すのであれば、もっと簡単な方法はいくらでもある。原審が架空経費と認定している沖縄大伸のケースでは金銭の授受はされていないことになっており、眞榮城の場合に実際に金を動かす必要があったことを合理化する理由はない。乙六では、喜納税理士を騙すために実際の金銭の授受を行った旨の被告人の供述調書になっているが、乙八ではその理由付けは否定されており、その後金を動かした理由は何も述べられていない。しかも、眞榮城から金を返して貰うのに、被告人が異常に複雑かつ無意味な行動をしていることも全く説明がつかない。

2 幸喜が眞榮城から右四億五〇〇〇万円を受け取ったことは事実であるが、幸喜はこれを被告人には返していない。幸喜は、これを海邦興産のゴルフ場許認可申請の協力金として、関係諸機関に交渉してくれた者などに渡したのである。ただ、幸喜は、このことを取り調べの際にはっきりとは述べなかったものと思われる。幸喜や被告人にとって、この多額の金銭を交付した先を取り調べ機関に対して明らかにすることはできなかったのである。

眞榮城は、被告人が海邦興産株を売却したことを聞きつけ、何か仕事をして報酬を貰いたい旨被告人に申し出、被告人は幸喜と相談の上、四億五〇〇〇万円については全て幸喜と眞榮城に任せた。海邦興産についての細かい事情をよく知っている幸喜は、この金を配る必要があるところ、即ちゴルフ場開発の許認可に協力してくれた関係者を知っており、自らの判断でその者らに右四億五〇〇〇万円を渡した。

三 幸喜に対する四億円

山川は、換金できた六億円と四億円分の小切手を幸喜に渡した旨供述している(甲二一)。幸喜は、小切手をも渡されたかどうか記憶にない旨を調書では述べている(甲二二)。しかし、弁護人の調査によると、現金六億円については幸喜から被告人に渡されたことは間違いないが、幸喜は右小切手の四億円については、山川から受け取ったものの、被告人には返していないことが明らかである。証拠上も、右四億円が被告人に戻されたことを証明する直接の証拠はない。

被告人は、事前に、幸喜にこの四億円の処理を全面的に任せており、幸喜は、眞榮城を介して受け取った四億五〇〇〇万円同様、自らの判断でこの四億円をゴルフ場の許認可に協力してくれた関係者に渡したのである。眞榮城の四億五〇〇〇万円同様、幸喜は、この四億円を渡した先を取り調べ機関に対し明らかにすることはできなかった。

四 まとめ

当初、眞榮城が被告人に対し四億五〇〇〇万円の領収証を切ったのは、実際に同額の金額が被告人から眞榮城に対して渡されたからであり、この金が被告人に返されたということは証拠上必ずしも明確に認定できるものではない(この部分の幸喜の供述は非常に不自然かつ不合理で、信用性に乏しい)。実際は、右金額は被告人の手元にはかえっておらず、幸喜の判断で海邦興産のゴルフ場開設の協力者に支払われたものであり、経費に含まれるものと考えられて使われたのである。また、幸喜は、山川から受け取った四億円を同様に被告人には渡さず、被告人の意向に従い自分の判断で関係者に配ったのである。ジャパンシステムに対する仲介手数料としての領収証の額が、四億五〇〇〇万円から八億五〇〇〇万円に四億円増やされているのは、実際に山川ルートからの四億円は経費として使われていることは共通の認識であったこと、どちらも幸喜が中心となって動いていることから、幸喜の指示により増額されたからと考えられる。眞榮城に対し、領収証の額面を四億円分増額する事を指示したのが幸喜であることが明らかである(甲三三)ことからも、右の事実は推認される。

したがって、合計八億五〇〇〇万円は架空の仲介手数料ではなく、実際の金の動きをとなもった現実の経費であり、結果的な公表金額に誤りはない。

仮に、これが税務上、経費性を否定されるものであったとしても、被告人は、少なくとも海邦興産株式売却の上での必要な支出だったと確信しており、課税対象となる金銭だとは思っておらず、逋脱の故意はない。また、被告人は、本件申告実務は税理士に一任しており、右が計上されていることの認識(不正行為の認識)を欠いていた。

また、その結果、被告人には、本件に関する違法性の意識もその可能性もなかった。

第七 沖縄全日空リゾート株式会社に対する売買違約金について

被告人は、海邦興産株式会社が沖縄全日空リゾート株式会社に対して支払うべき違約金五億一三三九万四六一九円を自ら立替えて支払ったことから、右金額を株式譲受人の国場に対し返還請求をした。右譲受人らは右立替えのうち金五億円を平成二年一一月一四日貸金名下に被告人に支払った。

借用の形式にしたのは、譲渡人の交渉担当者であった名嘉清次と被告人の顧問税理士であった喜納兼永の相談の結果である。その理由は、譲渡することになった海邦興産株式会社の債務内容が当時はっきり確定してなかったことから、右名嘉としては払いすぎがないように借用形式にし、後日、右債務が確定した段階で清算するという意図があったからである。それ故、被告人としては右金五億円はあくまでも借用金であって、沖縄全日空への立替金は未だ回収されていないものと錯覚していたのである。それというのも、本件株式の売買当事者間では、最終的な清算がなされなかったからである。それ故に、被告人は、原判決添付の別紙1の売買違約金を税務申告の段階で経費として計上するに至ったものである。右申告を担当した喜納兼永税理士から、右違約金が経費に該当しない旨の説明が少しでもあったのであれば、被告人は自らの誤解・錯誤に気がついた筈である。被告人は全く幼稚なミスを犯したことにはなるが、意図的に架空な経費を計上したわけではないのである。

【量刑不当】

第八 量刑不当

一 脱税額について

原判決は、量刑事情の第一点として本件脱税額が巨額であること、正規の所得税額に対する脱税額の割合が九一・四八八パーセントと高いことを挙げている。しかし、前述のように、原審の株式譲渡所得の額の認定には誤認があるのであるから、脱税額も逋脱率も原審とは異なる、適正な認定がなされるべきである。

二 脱税方法について

原判決の量刑事情は本件脱税方法が巧妙かつ狡猾なものだと断じ、犯情が悪質だとしている。

1 原判決は、株式の一部を山川宗孝の名義で収入の一部を除外する際、「買受人として立場の弱い株式の譲渡先に対して虚偽の売買契約書を作成させ」たと断じているが、そもそも株式の譲渡先は立場が弱いなどとは言えないし、被告人がそこにつけこんだ事実もない。また、前述のように、売買契約書は虚偽のものではなく、事実に合致した正当なものと認定すべきであるし、少なくとも被告人は税理士らの指導により、正当なもの、問題のないものと認識していた。

2 また、原判決は、借金を抱える山川や眞榮城らに報酬を約束して利用した点を犯状悪質の根拠とするが、本件においては、むしろ山川や眞榮城が自分たちに金儲けをしたいために被告人を利用したと見るべきである。山川や眞榮城は、自分たちから積極的に何かさせてくれと被告人に対して申し入れをしているのである。

そして、山川らに一定額の株式譲渡収入や仲介手数料収入があった旨の確定申告をさせている点も悪質であるとしている。しかし、山川、眞榮城両名が確定申告を行ったのは独自の判断でしたものであり、被告人の指示や命令によるものではない。

3 本件で最も悪質と考えられる行為は、税務署の決算報告書を過去六期分に渡って差し替えていることであると思われるが、原判決はこれも被告人がさせたものと認定している。しかし、報告書の差し替えを思いつき、実行させたのは島袋税理士であり、被告人はこの点について何ら関与していなかった。前述のように、被告人がかかる手口を知ったのは国税の調査が入ってからであり、被告人が差し替えを指示したことはないし、そのようなことがなされたという事実さえ知らなかったのである。この点、島袋昭良や高嶺宏之の検面調書では、被告人の命令を受けたり被告人に報告していた旨の記載があるが、右島袋の調書は、本件の共犯者とされる者であるにも拘わらず逮捕拘留もされておらず、かつ異常に早い時期に作られたものであり、その内容も自らの行為の責任を全面的に被告人にかぶせようとしているものであることは明らかである。このような同人の供述調書を、十分な信用性があるものと判断することは到底できない。

4 以上のように、本件における脱税方法全てにおいて被告人の指示・命令が及んでいたことを前提とする評価は誤ったものである。例え本件脱税方法が巧妙かつ悪質なものだったとしても、その責任を全面的に被告人に負わせることはできない。

三 動機について

原判決は、本件動機が自己が行っていた不動産業などの事業拡大のために資金を多く得ようとした点にあると認定し、情状として何ら酌量の余地がないとしている。しかし、かかる認定の起訴となった被告人の検面調書は、既述のような事情で作成されたものであり、その信用性はほとんどないものである。被告人の動機を認定するには全く不十分な証拠と言わざるを得ない。

四 本件のような関係者多数が複雑に入りくんで絡み合っている事案においては、検察官がある一つのストーリーと被告人の人物像をかなり早い段階で作り上げ、全ての証拠(供述調書)をそれに沿ったものにすることは捜査手法として見受けられるところであり、本件においても同様の手法が採られたであろうことは容易に想像できる。実際、各関係者の検面調書だけを読んでいれば、確かにある一つの被告人の人物像が浮かび上がってくる。しかし、かかる人物像は、あくまでも検察官が捜査のかなり早い段階で考えて作り上げたものであって、真実に合致していない。本件事案の真相を把握し、情状面を大きく左右する被告人の人物像を十分に把握するには、各関係者の証人尋問が必要であり、同人らの検面調書だけでは不十分である。

以上、原審においては、本件公訴事実についての十分な証拠調べが行われたとは到底言えず、そのため原判決は本件の真相を十分に把握した上で量刑してはおらず、その点において極めて不当な刑の量定がなされている。必要な証拠調べがなされれば、自ずと量刑の起訴となる事実の認定も原審とは異なったものになるはずであり、量刑もそれに応じて適正なものになると弁護団一同確信している。

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